
呪いの儀式の予告
それは、平成十四年十一月のある日のこと。こんなわらべ唄から始まった・・・
「十二がつ~ 十七、十八、十九にちは~だいじょうぶ~で~ございます~ 十二がつ~ 十七、十八、十九にちは~だいじょうぶ~で~ございます~」
となにやら、どこからか子供達のわらべ唄が聞こえてきた・・・なんじゃこりゃ、いったいなんだ?この歌は・・・
昼に夜に四六時中聞こえてくるそのわらべ唄・・・
私にはそれは何かのメッセージのようにも聞こえたのである。
そしてふと母親のカレンダーを見ると、確かに「十二月十七日~二十二日まで旅行」と印がついている。「これはきっと何かの災いの啓示にちがいない」と思い、
「お母さん、旅行は十九日には帰っておいで、二十日以降は何か不吉な予感がするから」とうながし、その旅行を見送った。
私にはそのわらべ唄が「十二月十七日~十九日の間は安全だが、二十日過ぎには旅行先で何か災害が起こる」という「おつげ」のように聞こえたのである・・・
そして翌月、十二月十七日・・・(呪いの儀式当日)
「ここのところ、深夜まで仕事続きだったし、母もいないし、この三日間、ゆっくりと休養をとらせてもらうか・・・」と、久しぶりに日頃の疲れをいやすため、私は午前二時を過ぎた頃、寝床に就く事にした。
————しかし、なにやら遠くの方で妙な音が聞こえる—————————-
私はレコーディングエンジニアである。現在は自宅兼プライベートスタジオを持ち、日頃はCD制作や映画の吹き替え、TV番組等の録音業務に携わっている。
「そうか・・・これはきっと長年に渡る過酷なスタジオ激務がたたり、幻聴でも始まったか、 まいったまいった、 そうそうこの音は幻聴にちがいない! さっさと寝よう」
しかし、いっこうに その「音」はやむ気配をみせず、更にはっきりと、何やら太鼓の音と共にそれに合わせ、また妙なわらべ唄が始まった・・・
「トーン、トントーン・・・トーン、トントーン・・・~~~で~ございます~」
「何だ?また近くの天地理教で深夜の祈祷でも始まったのか?不気味だよなぁ、まったく!」
「トーン、トントーン・・・トーン、トントーン・・・死んで~ゆくので~ございます~おまえは死ぬので~ございます~ウラギリ者で~ございます~」
な、なんじやこりゃ? 何がウラギリ者だ! 何が「死んでゆくのでございます~」だと?まったくバカバカしい! あーぁ。こりゃ疲れの溜まり過ぎ!聴覚神経の使い過ぎ!これじゃ休み空けの作業にさしつかえる、さっさと寝よ寝よ!くだらない!」
ところがそのわらべ唄は一向に止む気配もなく、更に大合唱となり、まるで遠くの方から左右に蛇行しながらの怨霊御一行サマは、太鼓の大音声と共に近づいてきたのである。
視覚的には全く何も見えなかったが、音像空間的質感から表現すれば、数メートル先の左側手前には少女の合唱隊が、右奥には青年合唱隊、そして左側奥には女性コーラス隊も・・・そして中心にはそこの親玉らしき野太い声の不気味な怨霊が大音声で、
「死んで~ゆくので~ございます~」
———-実際にはそんな声は聞こえるはずもないが、その定位感といい、その声質といい、その時私にはそう感じた。————————————————–