
ある大型食品販売チェーン店(スーパー・コミット)用店舗内、食品売り場における缶ビール店頭販売促進PRビデオ用の音声を収録していた時の事である。
すでに悪霊にスタジオを支配されてからしばらく経過していた。
これではマズいと考え、東倉さんに教わった通り朝夕には勤行をしっかり行うようにしていた。
しかし夕方になるとやはり怨霊らの魑魅魍魎とした空気が漂ってくる。その日もナレーション、音楽録音と作業は進んでいったが、時間は押しており、勤行も行わずにそのまま作業は続行していった。
そして後はSE「プチッ!シュワーッ!」という缶ビールを開ける音を録音するのみとなった。
——————しかしもうすでに夕刻を過ぎてしまっている・・・—————-
嫌な予感は的中した。
SE「シュワーッ!」という音にはまたあの悪霊の不気味な声が入ってしまっていた。
私は音に集中していたため気付いてはいたが、クライアントや制作会社スタッフには気付かれていていない様子であった。
すでに時間も押していた事もあり、私は録り直す事もせず全ての最終調整工程(ミックス作業)を行い納品してしまったのである。
ところが数日後、恐れていた事態が起こった。納品先の店舗よりクレームが入ってしまったのである。
「店頭販促ビデオから妙な声が聞こえてくる、気持ちが悪いとお客様からクレームが入った」と。
すぐに制作会社に連絡が入り録り直しとなった。
制作会社側も、
「前田さん、今度は大丈夫なんでしょうねぇ、ここのスタジオ、なんか夕方になると変な妖気が漂ってきて悪霊にとり憑かれてるんじゃないんですか?」
と念を押され私も謝罪し正直に告白した。その会社とはもう何年も好意にしてくださっているので直ぐに取引停止とはならず安堵したが「これからしっかりと対策お願いしますよ」と念を押された。
それからは、私は誰に何を言われようが作業が夕方に及ぶ時には録音作業を中断し、必ず勤行(御経を読み、御題目を唱える修行法)を行うようにしている。
この件もすでに時効とは思うが、
スーパー・コミット様、そしてお客様、以前は私にとり憑いた悪霊どもがワルさをし、大変御迷惑をお掛けいたしました・・・