レコーディング作業中の奇怪な出来事


⚫︎ ビデオナレーション収録中の怪奇現象

 しかしそれからもさらに怨霊の憑依現象は続いた。やはり勝手な「悪魔払い」などという行動は禁物である。その後悪影響はさらにエスカレートしていった。

 あるスタジオ録音当日、その日の仕事は某、外資系アイスクリームチェーン店の教育マニュアル用ビデオのナレーション収録作業であった。

 収録中、しばらくすると何やら「キンキン」と異常な音がスタジオ内に響いてきてきた。当然レコーディングスタジオであるため、室内は完全防音、それこそ外部の音が入り込む余地もなく、当然そのような異音の出る物など何一つない。

 コントロールルーム内では私の後ろに座っているクライアント、そして制作会社のディレクター、ADらが神妙な面持ちになっていくのをひしひしと感じた。

 しかしどう対処する事も出来ない。こちらがかえって心配そうな顔をすれば、それこそ何かを察し不安がらせてしまう。ここは何でもない事をよそおって通常通りに何食わぬ顔で録音作業を押し通すしかない、と腹を括った。

 しかしどうしても不可解である。なにも無いスタジオ空間にはすでに「キーン、キーン」という異音から低音域の「ぐぅ~わぁ~」といううめき声まで混入してきた。何とか音質補正し、低音域悪霊音声成分を除去してもゴマカシきれない。

 その異様な事態にナレーター、スタッフ、クライアント一同全員カタマってしまった。

 あとは早くここを切り上げ、他のスタジオに移行するしかないと思っているに違いない。

 「ここのスタジオは呪われている、悪霊のとり憑いたスタジオだ」とバレてしまったという事である。

 「仕方がない、もうこれまでか・・・」と私は開き直り、と取引停止を覚悟した。

 そしてさらにバケモノらの嫌がらせは続いた。呪いのうめき声もナレーションの声の合間に入ってきた。

 その声に集中すれば思考能力はなくなり、ついには鼻血を吹き出し大惨事だ。

 私は、

『くっそー、悪霊らの嫌がらせも遂にここまで来たか!もうこうなったらこの音声データを嘘か学会の会員らに「おまえらの宗教にとり憑いた悪霊の呪いの歌声だ! よーく聞け!」と聞かせてやる!』とばかりに作業をしながらもヤツらに念を送った。

 するとどうであろうか、今度は

『ヤッメッロッ!ヤッメッロッ!嘘か学会のヤツらには聞かせるな!ヤッメッロッ!ヤッメッロッ!』

 という声がはっきりと、しかも音声トラックに延々と記録されてしまった。

 その悪霊の音声は編集してごまかし、何とか事なきを得たが、ご希望があれば悪霊の音声ノーカット版をお聞かせしよう。(バイトの北原君はそれを聞いたとたん、吐き気をもよおしたが・・・)

 アイスクリーム会社のスタッフと制作会社のみなさん、あの時は恐ろしい目に遭わせてしまってごめんなさい・・・