妖怪 怨妙心の母の懇願


 私はある方法で次から次と入れ替わりたちかわりやってくる悪霊らの怨霊払いをしようと考えついた。

——————その方法とは———————————————————————-

 それはある日、カメラマンの経験を持つバイトの北原君にバケモノらが今まさに左耳にへばり付いているからと写真を撮ってもらった事があった。

 その時に写り込んだその悪霊らの写真を拡大プリントアウトし、事務所のホワイト・ボードに「ミスター目ん玉つながり/ブタ鼻の妖怪」と揶揄して張り出した。そして今度はそれをコピーし、そこに妖怪の名前を書き入れ、それを火あぶりにする、という方法であった。

 確かにその写真にそれぞれ「妖怪七変化」「妖怪宝珠魂」「妖怪怨妙心」と一枚ずつ書き入れ、火にあぶると、

『あっつっいっ!あっつっいっ!やっめっろっ!やっめっろっ!ギャァ~!』

という声と共に悲鳴を上げながら消えていく怨霊の気配を北原君も同様に感じた。

 そしてその灰を

「バケモノらめ!地獄に堕ちろ!」

 とばかりに恨みを込めて念じ、私が自殺しかけた裏の階段下の浄化槽横に瓶に詰めて全て埋めたのである。

 そして怨妙心も払ってしまおうと思った時、また聞き覚えのない妙な声が聞こえてきた。

『怨妙心の母で~ございます~どうかどうか~怨妙心を許してあげて~下さいませ~怨妙心は~ただただ~第六天の魔王に~たぶらかされていたので~ございます~どうかお許しくださいませ~これからは怨妙心を改心させます~怨念の心を捨てさせます~どうかどうか~お許し下さい~』

—————やはり怨妙心とは悪霊、私を騙していたのか・・・————–

 私はその母親の願いを聞き入れ、妖怪怨妙心だけはその願い通り、火にあぶる事はしなかった。

 そして母は私に感謝し、怨妙心も怨念の心を入れ替え、もう二度と第六天の魔王には従わないと誓った。

 その後も次々と列をなして悪霊らがやってきたが、皆さん一様に名前を聞いても答えなかった。

 言えばその名を悪霊の写った紙に書き入れ、念を込めて焼き払われていく事を知ったからである。

 しかしその次々とやってくる名無しの妖怪の中でも、ある話にはまたまた私は騙されてしまった。

 そのバケモノの写った写真とは、実は私の醜い心が現れた姿、という事であった。確かに、ひたいは私と同様、張り出し骨格もそっくりだ。

 そして名無し妖怪曰く、

「オマエは自分が念じた通り、地獄に堕ちるので~ございます~どんなに立派な墓に埋葬されようが~オマエの霊魂は自分で願った通り浄化槽の横に留まり~地獄の生命となって~バイトの北原がスタジオの後を継いでいるのを~オマエは恨めしく見ながら永久に苦しむので~ございます~」

「つまり、自分で自分の「墓穴」を掘った、という事か・・・」

 まさしく、この妖怪の説は真実であると思い込んでしまったのである。それは、全ては自分が行い、「地獄に堕ちろ!」とばかりに念じた因果の果報を、これから死んでも永久に受け続けていかなければならない、という事である。

 そして私は、こんな方法で悪霊払いなど自分勝手な判断で行ってはならない、という事をつくづく反省した。

 その後は私が過去に縁の有った霊魂さまたちが様々な願いを聞いてもらおうと次々にやってきた。多分私が唯一霊界と意思疎通が適う事を知って、礼儀正しく一列になり、皆順番待ちをしながらどこからともなく集まりだしたのである。