臨終間近に来るという御先祖様のお迎えの儀式


『あなた様の母上様の~お婆様の~姉でございます~お迎えに参りました~』  

 今度はなんと御先祖様がいらっしゃった。

「これはマズい、本当に私は臨終を迎えるのか、これでこの世ともお別れか、これがよく話には聞いていた、臨終間近になると御先祖様がお迎えに来る、という事か・・・」

「これで私は本当に死ぬんだ、そうに間違いない・・・御先祖様がお迎えに来たらもうおしまいだ」

 と私は覚悟を決めた。こうなればもう後は自分の御先祖様の言う通りにするしかない。

「は~ぁ それはそれは。私の母の叔母のお姉様でいらっしゃいますか、それはご丁寧に遠路はるばるお迎えにまで来て下さり、ご苦労様でございます」

『はい~。お迎えに参りました~』

 と、そのくらいならまだ良いい。それがだんだん厄介になってくるのである。

『あなた様の父上の~母の妹の~婿の姉で~ございます~お迎えにまいりました~』

「は~ぁそうですか、そうですか。え~っと、私の父の妹の、お婿さんの妹さん?でしたっけ?」

『い~え、あなた様の父上の~母の妹の~婿の姉で~ございます~』

「あ、そうそう、そうでしたっけ、私の父の母の妹の、お婿さんのお姉さま?」

 正解の場合には

『お迎えに参りました~』

 というだけで帰ってくれる。それが次第に次々とエスカレートしていき、

『あなた様のお父様の~お爺様の~ひいお祖母様の姉の~一番下の弟の~嫁の~その上の兄の~娘でございます~お迎えに参りました~』

「はぁ~あ、そうですか、そうですか、それはそれはご苦労様でございます。

 私の父のお爺さんのお姉さんの・・・え~っと、二番目の妹さんの、お婿さんの、お兄さんのお嫁さんの娘さん?でしたっけ?」

『い~え違います~あなた様のお父様の~お爺様の~ひいお祖母様の様の姉の~一番下の弟の~嫁の~その上の兄の~娘でございます~お迎えに参りました~』

——-え~っと、私のオヤジのじいちゃんの、そのまたひいおばぁちゃんの、お姉さんの?・・・————————————————————-

「そうですか、そうですか、私の父の、お爺さんの、そのまたひいばぁちゃんのお姉様の(え~っと、なんだっけ?)あ、そうそう、そのまた一番下の弟さんの、お嫁さんの、その上のお兄さんの娘さん?」

『お迎えに参りました~』

 私はせっかく御先祖さま方がお迎えに来て頂いているのだからと丁重にそのご挨拶への敬意を示し、真剣にその系統を覚えながら対応していった。

 その様に延々とそのいやがらせ御先祖様たちは一列に並び次々と、

『あなた様の~母上の~兄弟の一番末の弟の~嫁の二番目の兄の~長男の~嫁の母の~叔父の~弟の~子供で~ございます~お迎えに参りました~』

と、その血縁関係が正確に復唱出来るまで、決して許す事なく夜明けまで延々と続いたのである。

 しかもその御先祖様たちは答えが完璧にピタリと的中するまで正確に何度でも先祖系統を述べてくるのである。

 「悪霊」とは実際に力を持って人間をコントロールする訳ではないが、その大六天の魔王の通力には驚くばかりである

 本当に「魔」は知恵にたけ、人間をその悪知恵で不幸に、或いは地獄の境涯へと引きずり込んでいくのである。逆にその能力には本当にたいしたものだと感心してしまう。

 私も一晩中翻弄され続け、朦朧とする中、朝になれば気付かないうちにもうグッタリ。

 毎度の事ではあるが、

「今度こそ本物だ!」

 と、本気で死を覚悟し、完全にノイローゼ状態となっていたのである。

「御先祖さま~御先祖さま~私のためにわざわざここまで来て下さってありがとう~ございます~・・・(ジャラジャラ)」