
ある映像制作会社と新規御取引の交渉を行っていた時の事である。よくある流れで名刺交換~軽い世間話~御取引の条件等々・・・交渉も順調であった。
しかしそこにも余計な妖怪連中が憑依してきた。
『その会社とは~取引してはならないので~ございます~』
—————–なんでこんな大事な時に——————————————————-
「うるせぇなぁ、あっちにいってろ!今は大事なお取引の交渉中だ!」
と二人しかいない中、私は実際にブツブツと声に出して言いながら、新規顧客の目の前で左斜め上に向かって「しっ、しっ!」と追い払う仕草をしていたのである。
『だめでございます~その会社は~あなたをだます~詐欺会社なので~ございます~いくら仕事をしても~お金は支払っては~もらえません~』
と、人間である相手の声よりもはっきりと私の耳には聞こえた。
「なるほど、妖怪の言う事にも一理はありそうだ。私は今まで随分痛い目に会ってきた。この映像制作、広告業界では支払いサイトは最短でも三ヶ月、もちろん契約書もなく私の所のような末端の業者など、いいように騙され、当たり前のように毎月の未払金に悩まされてきた」
「そう言えば悪霊らの言う通り、この人確かになんか、この業界特有の支払いにルーズそうな うさん臭い顔してる」
私は本気で、
「人を騙してでも儲けようとする人間たちよりも、よっぽどその妖怪らの方が信頼できるかもしれない」
と、そのお告げを信じてしまった。
以来の仕事を断る理由として、
「その日、スタジオ空いていませんねぇ、そっちも空いてません。あ、その日もぜ~んぜん空いてないなぁ・・・」
と全面拒否の姿勢を示し、結局新規取引先を逃してしまったのである。
こんな調子で次々と仕事の依頼は破断、私は「あの人完全に狂ってる・・・多重人格者だ」というレッテルを貼られ、更にスタジオの業績は悪化の一途をたどっていった。